デュエイン・オールマンの追憶4
デュエイン・オールマンがねむる「ローズ・ヒル・セメタリー」は広大だった。
ゲートでも、デュエインのお墓の位置を記した印刷物をくれた。 にもかかわらず。 私は道に迷ってしまい、どんどんあらぬ方へ行ってしまった――。 ほとんど確信的にこりゃダメだと観念し、折よくお墓参りしていた父子に道を尋ねた。
「ぜんぜん違うところに来ているよ。 デュエインの墓は反対側だ」
ジーンズにTシャツの、白人のお父さんが教えてくれる。 年齢は当時の私とおっつかっつ、30代半ばだったろう。 この日、白人をみたのはホテルのスタッフ以来2人目だ。
で、彼の脇には小学1年生くらいの男の子がぴったりとくっついている。 しかも、彼の視線が痛い、痛い。
男の子は眼を皿のようにし、ついでに口を半開きにして私を見つめている。 驚愕、を表情にしてみろ、というとこんな具合になるだろう。 私は、自分の顔に穴があくかもしれないと思った、いや冗談ではなく。
おそらく、彼の「人生」において、白や黒でなく、黄色い人間を見たのは私が初めてだったんじゃないだろうか。 しかも、その黄色いのが、自分よりも下手クソな英語でパパと話している! びっくりしたし、珍しいし、なんだ、こいつは! って感じだったんだろうなあ……。
その後、私は多少の紆余曲折があったものの、デュエインとオークレーの、二つ並んだ墓前にたどりつくことができた。
白い墓石に刻まれたレス・ポールギターをみて、さすがに私も悄然となった。 ベリーの墓石にはベースギターが彫ってある(えっとフェンダーのブレジョンだったと思う)
ただ、観光名所というわりには、墓のまわりの手入れはほとんどなされていなかった。 今となっては記憶があいまいだが、花も手向けられてはいなかったはずだ。 あるいはデュエインの命日まで、まだ2か月ほどあるわけで、その日には草もきちんと刈り取られ、花束が墓石を埋めているのだろう。 そう思いたい。
デュエインの葬儀の際には、相棒ギタリストのディッキー・ベッツが名曲「エリザベス・リードの追憶」をつま弾いたという。
私も用意のウオークマンをとりだし、おもむろにカセットテープを入れ、『フィルモアイーストライブ』バージョンのこの曲を聴いた。 いささか予定調和かつミエミエではあるが、やはり涙が下のまぶたに盛りあがってくる。 酒蔵におもむき、タンクからほとばしる純米吟醸酒を呑むときのような、過剰な反応であった。
そして、草むらにひそむメイコンの蚊が、激しくむき出しの腕や頬を刺した。 感動しつつ、私は大きく腕を振ってうるさい虫を追い払った。
最後にもう一回、しっかりとデュエインの白亜の墓石を眼に焼き付け、私は墓地を去った――のだが、いったいぜんたい、どういう方向感覚をしているのか、再び道に迷った。 しかも、誰にも出逢わぬ。
出口を求めてさまよう私は、ようやく向こうから人がやってくるのを見つけた。
ほかならぬあの少年だった。 地獄に仏とはこのことだ。 私はフルボリュームの笑顔を浮かべて、「今日、彼の人生の中で最大の発見というべき黄色い男をみた!」少年に手を振った。 彼はやはり怪訝そうな表情をつくりつつも、後ろから小走りできた、彼の父親に大声で呼ばわってくれた。
「ダディ、さっきの男の人がまた、あそこに!」
やってきた父親は、さすがに笑いがこられられないようだった。
「ちゃんとデュエインの墓にはいけたのかい? そりゃよかった。 でも、この道をいっても出口にはたどりつかないよ」
自己嫌悪にげんなりしている私が、あまりに哀れだったに違いない。 彼は親切にもピックアップトラックで私をホテルに送ってくれた。 父親の名はジョージ、息子はフレディといった。 フレディは7歳で将来はパイロットになりたいと、恥ずかしそうに話してくれた。
「エリザベスリードの追憶」を耳にすると、敬愛するギタリストが眠る地に立った感動と一緒に、メイコンでの何ともこっぱずかしい気持ち、それにジョージとフレディーの素朴な顔とやさしさが、じんわりとうかんでくる。
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澤田酒造と「白老」をめぐって(下)
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澤田酒造と「白老」をめぐって(中)
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澤田酒造と「白老」をめぐって(上)
026
まったく新しいHP、ちっとも変らぬ増田晶文
025
奈良で、ころがる。
024
書き下ろし小説、増田晶文は悶絶。
023
出木杉クンとのび太
022
改めて、壇一雄。
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『稀代の本屋 蔦屋重三郎』
ふたつめの「あとがき」020
おさけの「気」のご縁
019
マンガ『いっぽん!! しあわせの日本酒』コラボのお酒! 発売
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FM PORT 「はずのみ」に出演 (にいがた県民エフエム)
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マンガ「いっぽん!! しあわせの日本酒」連載スタート!
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『エデュケーション』裏あとがき
015
北斎と歌麿、蕪村に若冲。
そして春町、政演。014
ポジティブ宣言
013
銘酒「笑福亭松喬」
012
大分紀行1「フグの至福」
011
スズメの親子
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母と俳句
009
四の月
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Song Of The Wind
007
四月に生まれて、春のこと
006
ビーがいた日
005
幼い兄妹
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デュエイン・オールマンの追憶4
003
デュエイン・オールマンの追憶3
002
デュエイン・オールマンの追憶2
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デュエイン・オールマンの追憶1
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